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その女が注射器を捨てるまで 第62話

断れない尿検査...覚醒剤をやってない私には自信があった

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑲ 紙コップアゲイン>


「詳しい話は署でしてもらいます」

「なんで? どうして駐禁くらいで、いちいち警察署に行かなきゃいけないの?」

 警官は反則切符を取り出す様子もなく、表情のない目であたしを見ながら、淡々と続けた。

「とにかく詳しいことは署で聞きますから」

 あたしのクルマのすぐ前に、パトカーが一台停まっていた。そのドアが開いて、もう一人の警官が出てきて、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

「ねぇ、これなんなの?」

「とにかく、署に来てもらいますから」

 丁寧語なのに、有無を言わせぬ強いものがあった。
 その場で進展のないやり取りを続けるのも面倒な気がしたので、あたしは言われるがまま、素直にパトカーに乗って警察署に行った。

   

 警察署に到着すると、いつかのときと同じように、警官二人に挟まれるようにして、座る間もなくトイレに連れて行かれた。

 トイレの前では女性警官とスーツ姿の刑事が待ちかまえていた。
 すでに連絡が入っていたのだろう、あたしを見ると刑事が言った。

「今から検尿してもらいます」

 単刀直入。前置きもなにもなし。

「検尿って......そんな義務ないでしょ?」

 圧倒されながらも、辛うじて反論する。

「前科があるから採尿します」

「前科!? だからって強制はできないでしょ?」

 強制という単語に反応したのか、刑事は二、三歩踏み込むように近づいて来ると、顔をこちらに突き出し、声を落としてこう言った。

「あなたの同居人の久間木ね、本日、覚醒剤取締法違反容疑で家宅捜索が入りました。容疑者の同居人で、しかも前科があるんだから、断れないでしょ?」

 刑事は声を落としたはずなのに、その声はさっきよりも低音がビリビリと響いて、圧迫感が増していた。

 いえ、それよりも、

 ──あたしにさえ使っているのを隠せなかった久間木だから、警察にバレるのも当然だ。

 妙な納得があった。

 アパートに家宅捜索に向かう途中で、偶然、マークしている容疑者の同居人のクルマが路上駐車してあるので確保したわけだ。

 ......ということは、あたしも疑われてるんだ? 心外だ。

「久間木は久間木ですから。一緒に住んではいたけど、あたしは本当にもうやってませんから」

 冷静に言ったつもりだったけど、語尾が少しだけうわずってしまった。そのせいで誤解されなければいい、と一瞬思った。

 そんなあたしにつけ込むように、刑事は続けた。

「だったら尿検査したほうがいいでしょう? やってないなら結果はシロだ。検査結果がシロだったら、無実の証拠になる。これ以上の証拠はないでしょ?」

 混乱しかけた頭で、刑事の言葉を懸命に整理してみる。

 ──うん、確かにそうだ。

 尿検査をすれば、警察があたしの無実を科学的に証明してくれることになる。

 ──助かった。

 そう思った。


(つづく)



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やってないから出るはずないのに...



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/