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その女が注射器を捨てるまで 第61話

覚醒剤と縁を切ったはずだったのに、彼らは追いかけてきた

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑱ 既視感>


早朝の路上で職務質問

 久間木に裏切られた。

 侮辱されたような気がして、泣けてきた。

 泣きながら、夜の田舎道を闇雲に走り回った。

 見通しのいい真っ直ぐなあぜ道を飛ばし、くねくねとカーブの続く山道を走り、それでも越してきて間もないからか、たいして遠くまでは行けず、結局はアパートからそれほど離れていない場所に戻っていた。

 疲れていたけれど、部屋には戻りたくなかったので、アパートに近い雑貨屋の向かいにクルマを停めた。

 頭を冷やそうと思って、雑貨屋のわきに立つ自動販売機で炭酸飲料を買った。

 缶はキンキンに冷えていた。
 気持ちいいかと思って額やうなじに当ててみたけれど、缶にまとわりついた水滴でベタベタになり、余計にイラつかされた。

 プルタブを上げて飲んでみても、炭酸がピリピリとノドに痛くて、さらにイライラさせられた。

 フロントウインドウに広がる空は、漆黒から濃紺を経て、明るい青になりはじめていた。

 そろそろ出勤のクルマが走りはじめる時間だ。

 イライラ運転で事故でも起こしたら、それこそつまらない。

 ちょっとだけでも寝ておこう。
 シートを倒して横たわり、目を閉じた。

 でも、疲れと眠気は確かにあるのに神経が高ぶっていて、なかなか眠りに入れなかった。

 だからって部屋に戻るわけにはいかないし......。

 まぶたの向こうで空がどんどん明るくなるのも、急かされるようで妙にイライラさせられた。


 それでもちょっとはうとうとしていた。

 あたしは物音で目を覚ました。

 意識がはっきりしてくると、「コツコツ」と、それほど強くはないけれど、間断なくサイドウインドウが叩かれているのに気がついた。

 頭を上げると、警察官が小刻みにウインドウをノックしながら、張りつくように車内を見ていた。

 なに? どうしたの?

 夢じゃない、確かに本物の警官。それを自分の中で確かめてから、ウインドウガラスを下げると、

「駐車違反です」

 事務的な口調で警官は言った。

 えっ?

 速度メーターの横で青緑色に光るデジタル時計は、まだ八時にもなっていなかった。

 こんな朝からなに?

「田舎道だし、ほかにクルマも走ってないし......」

 言い訳をしながら警官の後方に視線をやると、雑貨店のシャッターもまだ閉まっていた。

「誰の邪魔にもなってないでしょ?」

 警官は無表情なままで言った。

「とにかく駐車違反ですから」

 睡眠不足の寝起き、しかも前夜のケンカのイライラがまだ残っていた。

「はいはい、わかりました! 免許証でしょ!」

 何点でも引けばいい、反則金ならいくらでも払ってやる。そんな気持ちで運転免許証を取り出そうと、バッグの中をかき回していると、

「いや、とりあえず署に来てもらいますから」

 ......なんで?


(つづく)

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完全な不意打ちだった


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/