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その女が注射器を捨てるまで 第60話

シャブ中男にとって私は単なるキメセクの玩具だった

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑰ やっぱりシャブ中>


アレに塗る

「なにやってるの!?」

 自分の股間を握っている久間木に、あたしはつい大きな声を出していた。

「あんた、この前もうしないって言ったでしょ! あたしの前ではもうしないって!!」

 不意打ちを喰らったようで、久間木は言葉もない。股間を握る手もそのままで、身じろぎもしない。

「どういうこと!?」

 涙があふれてきた。

 あたしは座り込む久間木を怒鳴りつけながら、細くて弱っちい腕を振り下ろした。

 何度か振り下ろしたところで、正気に戻ったように久間木が言い訳をはじめた。

「いや、ちょっと塗ってただけだから」

「ちょっとって、塗ったらあたしとするつもりだったんでしょ?」

 隣近所のことなど考える余裕もなく、大声で怒鳴りつけた。

「いや、これは俺が使ってるだけだから」

「そんなこと言ったって、そのまましたらあたしにも付くでしょ!?」

 無言であたしを見上げる久間木。額には玉の汗。

 もうキマってるな──。

 そう思いながら、夜中にもかかわらず怒鳴り続けた。

「塗ってすれば、あたしも使ったことになっちゃうでしょ?」

「いや、塗ったら、あとはするつもりなかったんだよ、ホントだよ」

「あんたのとばっちりを受けてまた捕まったら、どうなると思ってるの! もう本当にシャブは嫌なのに!」

「いやホント、おまえには迷惑かけないから」

 血走った目をキョトキョトと小刻みに動かしながら、久間木は説得力のまったくない言い訳を続けた。

 目の前の久間木は、頼れる久間木ではなく、ただのシャブ中の久間木だった。

 話にならない。今はなにを言ってもダメだ。

 ミツオに思い知らされたのと同じことを久間木にも思った。

 あたしは手早く着替えると、ボストンバッグを取り出して、下着や着替えや洗面道具を、手当たり次第に詰め込んだ。

 シャブを使っている人間とはこれ以上、同じ空間では過ごせない。

 疑われるようなことをしたくなかったし、キマっている人間に対して強い嫌悪を感じてもいた。

 バッグを担ぐと、クルマのキーをひっ掴み、全裸であぐらをかいたままの久間木を置いて、あたしは部屋を飛び出した。

 釈放されてから通院のためにあわてて買った中古の軽自動車。
 その助手席にバッグを放り投げ、エンジンがかかるとすぐにギアを入れ、タイヤが空回りして耳につく音を立てるほどアクセルを強く踏み込んで、逃げ出すようにアパートをあとにした。

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もうシャブは見るのも嫌だったのに...

(つづく)


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/