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俺の、最後の獄中絵日記 第119回

いやきち

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前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は現在、北海道は月形刑務所で服役中。こんなことは今度で最後!と心に決めた武二郎は、今のみじめな境遇をいつまでも忘れないために、日々の暮らしを支給された唯一のペン=ボールペン1本で描くことにしたのだった。


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いやきち


2013年(平成25年)5月2日

帰りの検身場に、今日は見慣れないオヤジが立っていた。

今日の俺は、最後から2番目に検身場へ入っていくグループにいた。

シャツ、パンツ、くつ下をカゴに入れ、新しいパンツをはいた時、誰かが「ちゃんと止まってやれッ!」と感じ悪く注意されているのが耳に入る。

俺の前のグループの人も同じ注意をされてやり直しさせられているが、このオヤジ感じが悪い。

残り2名となり、次は俺の番だ。

こんなことで注意を受けて腹の立つ思いをしたくないから、ここは落ち着いてじっくり行こうと心に決める。


台に乗って口の中、左右の耳、手を開いて両足の裏、パンツのゴムを引っ張りながら「772番!」とがなる。

いつもならここで「よし!」というオヤジの声がかかって台を降りるのだが、今日の新顔のオヤジは「よし!」を言わない。

......あれ、降りてもいいのかナ!?と思いながらも待っていると、ようやく「よし!」の声。

タイミングが合わない。

そうか、皆、これをやられていたのだ。

このずれたタイミング、わざとやっているのだろうか?

最終グループにいた、若いのも引っかかった。

「ちゃんと止まってやれッ!」

これまでの経緯を見てきて本人もことのほかいつもよりきちんとやったつもりだったんだろうが、思わず「チェッ!」と言ってしまったから大変だ。

鬼の首を取ったかのように「お前、今、舌打ちしたろ!」

「してねェよ」

「なんだその口は!」

「舌打ちしたらなんなんだコラ」

「ナニこのガキ!」と売り言葉に買い言葉で始まってしまった。

その若いのは、実にいいやつだったんだ。

今日も昼、二人で大笑いして話をしてた。

そんな気の合う若いやつが懲罰房へと連れていかれてしまった。

「ちゃんとやったじゃねーか」と悲痛な叫びがだんだん遠く、小さくなっていく。

確かに、お前はちゃんとやってたな。

俺はわかっているぞ。

わかってはいるけど......少し淋しい。

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