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俺の、最後の獄中絵日記 第112回

自分で言ってたクセによォ

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前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は現在、北海道は月形刑務所で服役中。こんなことは今度で最後!と心に決めた武二郎は、今のみじめな境遇をいつまでも忘れないために、日々の暮らしを支給された唯一のペン=ボールペン1本で描くことにしたのだった。


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自分で言ってたクセによォ


2013年(平成25年)4月25日

工場内には白いラインがいくつも引かれている。

整列したときの立ち位置や通路、便所に並ぶ列の線まで色々ある。

これを新しく塗りかえる作業を、2班の班長が黙々とやっていた。

俺にも経験あるけれど、これ絶対に気持ちよく一発で終わらないんだよ。

必ず踏まれる。

やっぱり今日も懲役に踏まれて塗り直し。

交代のオヤジが来ては踏み荒らされ、医務診察のオヤジに足跡だらけにされ、班長も渋い顔を隠せない。

わかるよその気持ち。

しかし、あれだネ、こういう時にオヤジ連中の性格が判るもんだネ。

踏んじゃったことに気づき、すぐに「ごめん」と言葉にするのと、「もっと気が付くようにしとけよ!」なんて人のせいにする奴と。

懲役相手なら、何を言ってもいいと思ってるんだろうナ。

きっと汚した床より自分の靴の裏のほうが心配なんだろう。

昼食が終わると、あるオヤジが口悪く、呆れ顔で言い出した。

「お前らよォ、朝から何やってるか見りゃわかるだろう。ボーっとしてねぇで、ちゃんと線踏まねェように注意して歩け。判ったな!」

午後の作業が始まってしばらくした頃、そのオヤジが"ペンキ塗りたて"の冊を越えて俺たちの所に来て、俺と一緒に作業している先輩に向かって作業の注意を一言ふた言。

こういう時でももちろん脇見をせず、しっかり手元を見て、自分の仕事をしてなきゃならないのだが、俺は思わず「オヤッさん!」と声をかけたんだ。

当然、オヤジはジロリとニラミをきかせて振り返り、
「お前よォ、いつから許可も取らずに話し掛けて良くなったんだ。ええ?」
とこのクソむかつく言い方。

だから言ってやったよ。
「っていうか、線踏んでるヨ」
ってね。

今回は俺の勝ちだろ?

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