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その女が注射器を捨てるまで 第54話

ダンボールから出てきたのは、どう見ても着られない中学時代のジャージだった

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑪ 絶縁状>


骨の髄までシャブの悪影響が......

 軽くぶつけただけなのに、打ちつけた胸のあたりは時間が経つほど熱を帯びた。

 しばらくすると、クキンと鋭い痛みが走るようにもなった。

 そして夕方には、呼吸をするたびに激しく痛んで、息をするのも辛くなった。

 どうしようもなくなって、救急車を呼んで病院に運んでもらった。

 レントゲン撮影の結果、打ちつけた部分の肋骨が折れているのがわかった。
 それほど強く打ちつけたつもりはなかったのに......。
 覚醒剤の後遺症で骨が脆くなっていたからだ。

 注射をやめたからといって、それで終わりじゃないんだ。

 覚醒剤を使っていたという事実は、文字どおり骨の髄まで染み込んでいて、今もあたしに影を落としている。

 済んだことでもなければ、過去のものでもないんだ。

 そう思い知らされた。

 もうひとつの事件は、親からの絶縁状。

 絶縁状と言っても、手紙の類が届いたわけじゃない。
 ただ、あたしが実家に置いていた荷物がすべて送りつけられてきただけ。

 秋田のアパートに落ち着いたことを母に知らせると、数日後、宅配便で大きな段ボール箱がいくつも届けられた。

 開いてみると、あたしがずいぶん前に使っていた洋服などが詰められていた。子供の頃に着ていた小さな服や、バブル期に流行った派手な服がほとんどだった。

「もう着られないものばっかりだよ」

 すぐに電話をしてみると、母は冷たく言い放った。

「もう、あなたは、うちとは関係のない人間だから。要らないものがあるなら、自分で勝手に処分なさい」

 そう言ったきり、黙る母。
 部屋の中が真空状態になったように、すべての音が遠くなった。

 なんと言ったらいいのか、言葉が見つからずに黙っていると、

「では、そういうことだから」

 電話は切れた。

 そういうことなら、手紙に書いて荷物に入れてくれればよかったのに。

「勘当です」と書いてくれれば、直接聞かずに済んだのに......。

 呆然としつつ、目の前の大荷物を順にほじくり返す。

 箱の中から出てくるのは、小学生のときに着ていた小さな服とか、中学生時代のジャージとか、どう考えても今さら着ないものばかり。

 なんでこんなもの取っておいたんだろう。
 中学時代の体操着のシャツは、首が伸びていて部屋着にもならない。

 思い出のために取っておいたの?

 だとしたら、それを送りつけて、捨てさせるのは、事実上の絶縁宣言に間違いない。

 とうとう見捨てられちゃった......。

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何も言葉が出なくて呆然とした


(つづく)


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/