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その女が注射器を捨てるまで 第52話

シャブ中だらけの環境から抜け出し、もう覚醒剤には手を出さない...はずだった

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑨ どん底から>

あの人も実はシャブ中だった

「一度シャブ中の烙印を押されたら、もう世間は相手にしてくれないからよぉ」

 身元引受人になってくれた久間木は、そう言ったあと、飯場の同僚数人の名前を挙げながら、衝撃的なことを口にした。

「ヤツらもシャブやってるんだよ。続けてるヤツもいれば、もうやめたヤツもいるけどな」

 いずれも逮捕されたことのある前科持ち。出所後に仕事や住む場所に困っているのを、久間木が見かねて、融通の利く自分の飯場に受け入れたという。

 そう話す久間木も、覚醒剤で逮捕されていた。

 だから、覚醒剤で捕まった人間のことがよくわかるし、困っている姿を見れば他人事とは思えずに、つい手助けしたくなるのだという。

「現役だろうが足洗ってようが、世間様にとっちゃ関係ないからな。一度でもシャブやってたのがわかると白い目で見られる。まっ、仕方ないけどな」

 久間木は知り合いの経営する秋田の飯場の近くに、アパートを一部屋借りていた。秋田で仕事をする際に寝泊まりするために借りていたのだろう。あたしが釈放されると、その部屋を「自由に使っていい」と貸してくれた。

「どうせ遊ばせてる部屋だから、家賃なんかも気にしなくていいからよ」

 そう言って、あたしをそこに連れて行くと、久間木は東京の飯場に戻った。

 この人がいなかったら、あたしはどうなってたんだろう。

 感謝の思いでいっぱいになりながら、東京に戻る久間木のクルマを見送った。

 仮住まいとはいえ、新生活の拠点が定まると、あたしは少しずつ現実を受け止められるようになっていった。

 どうしてシャブなんかに手を出しちゃったんだろう?

 はじめのうちは、軽はずみな自分を後悔した。

 逮捕される前に、自分から手を切ることができなかったのも悔しかった。前科者という一生拭い去ることのできない烙印を押されてしまったことが、悔やまれた。

 けれど同時に安堵も感じていた。

 逮捕されずにあのまま突き進んでいたら、体や精神を完全に壊していたか、成功するまで自殺を繰り返して──どちらにしても死んでいたに違いない......。

 そう思うと、むしろ逮捕されたことに感謝するような気持ちさえあった。

 秋田のアパートに落ち着いてから数日もすると、覚醒剤を絶つことのできた喜びを感じるようになった。

 これでやっと止まったんだ。

 もうこれ以上、堕ちることはない。

 シャブ地獄という落とし穴にはまって、注射しまくった挙げ句に逮捕されて、ついには底にまで着いてしまったけれど、逆に言えば、あとは上がるだけ。

 もう見えない底の深さに怯えながら生きていかなくてもいいんだ。

 これからは陽の射す上だけを見上げていればいいんだ。


(つづく)

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ここから、また新たな人生が始まる。そう思っていた


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/