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その女が注射器を捨てるまで 第51話

執行猶予。しかし身元引き受け人になってくれたのは、親ではなかった

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑧ 判決>

それは他人事のように聞こえた

 逮捕されてからもうすぐ二週間という朝、あたしの寝起きする房に刑事が来た。

 いつもはあたしが取調室に連れて行かれて、そこで会うのに。

「おう、おはよう」

「おはようございます」

 身構えて挨拶をすると、

「尿検査の結果が出たぞ」

 前置きもなしに刑事が言った。

「検査結果は陽性だ。よって覚醒剤取締法違反、使用の容疑で再逮捕する」

 確定だ。

 その日のうちに、あたしは拘置所に移されて、十日後に裁判がはじまった。

 初公判で罪状が読み上げられ、一カ月後に開かれた二回目の裁判であたしはそれを認めて、それからさらに一カ月後の三回目の公判で判決が下された。

 懲役一年八カ月、執行猶予四年。

 自分でも意外なほど冷静に、裁判長の言葉を聞いていた。

 厳粛な空気の中で聞く「懲役」という言葉は、ものすごく重いもののはずなのに、あたしは他人事のように聞いていた。

 逮捕されてからの約三カ月間を抜け殻のように過ごしてきたあたしには、体力や正気は戻りつつあったけれど、まだ現実を受け止めるだけの気力はなかったのかも知れない。

 四年という執行猶予期間は、通例よりも一年長いらしい。

「看護師という職に就いていた過去があり、薬物に関する知識を持ちながら──つまり、覚醒剤の危険性を知りながら手を出した」ことや、「看護師として身につけた静脈注射の技術を悪用した」ことが、一般の覚醒剤使用よりも悪質とみなされた。

 でも、あたしにはどうでもいいことだった。もう二度と覚醒剤に手を出すつもりはなかったから。

 シャブには心底懲りていたから、執行猶予は十年でも百年でもかまわなかった。

 そんなことよりも、これで本当にひと区切りついたことに、とにかくほっとしていた。

 執行猶予がついたため、あたしは判決が下りたその日のうちに釈放された。

 弁護費用を負担して私選弁護士をつけてくれたり、差し入れをしてくれたりと、両親はなにかと気にかけてはくれたけど、まだ覚醒剤常習者の犯罪者を受け止めることはできなかったようで、あたしは親に身元引受人になることを拒否された。

 それでは出所できないので困っていると、久間木が引受人を申し出てくれた。

「こんなときこそ助け合わないとな」

 快活に笑う久間木は、やっぱり頼れる存在だった。

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一刻も早くこんな所から出たかった


(つづく)


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/