>  >  > 視界が急に暗くなり意識が遠のいた...気づいたら点滴の針が刺さっていた。
その女が注射器を捨てるまで 第48話

視界が急に暗くなり意識が遠のいた...気づいたら点滴の針が刺さっていた。

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑤ ブラックアウト>

意識を失い、目を覚ますと......

 女性警官がふたを閉めるあたりから、あたしの目に映る光景からは色彩が消えて、モノクロになっていた。

 そして、封印し終わるのとほとんど同時に、ぐらりと視界が大きく揺れた。

 揺れた視界の中で、女性警官は目を大きく見開き、鯉のように口をぱくぱくと動かしていた。あたりはなぜか無音だった。

 左右のこめかみがチリチリと軽く痺れた。そして、余震のようにもう一度、視界が大きくぐらりと揺れると、目の前が真っ暗になって、すっと意識が遠のいた。


   


 気がつくと、あたしは布団の上で横になっていた。腕には点滴の針が刺さっていた。

 仰向けのままであたりを見回すと、部屋は六畳ほど。あたしの寝ている布団が真ん中に敷いてあるほかは、少し高いところに小さめの窓がひとつあるだけ。窓の反対の壁には扉があり、その扉には小さな覗き窓が付いていた。ふたつの窓にはどちらにも、がっしりとした鉄格子がはめ込まれていた。

 そこは警察病院だった。

 目を覚ますと、すぐに白衣の医者がやって来た。

 医者の話によると、あたしは採尿を済ませるのとほとんど同時に、気を失って倒れたという。丸一日意識を失っていて、目を覚ましたときには翌日の午後になっていた。

「極度の過労です。一時は血圧がかなり下がって、ひやっとしたんだよ。ざっと見た感じ栄養失調気味だし、肝臓もかなり悪くなってるみたいだから、ひと通り検査しましょう」

 検査の結果、肝炎が確定した。肋骨の骨折と右耳の話をすると、そちらの処置もしてくれた。

 あたしは、治療と取り調べの日々を送ることになった。

 朝、起床すると、まず朝食。
 朝ごはんを済ませたら、診察室に移動して点滴を打つ。
 ゆっくりと二時間近くかけて薬液を注入し、そのあとで肋骨や耳の処置をしたら、昼食。
 そして午後から夜まで、取り調べ。

 はじめのうちは取り調べの最中に、猛烈にイライラしたり怠くなったりしたけれど、そうしたものから逃れるために覚醒剤を注射することはもうできなかった。

 あきらめて我慢するしかなかった。

 腹をくくって我慢していると、体が慣れたのか症状が弱まったのか、三日目あたりから少しずつ楽になりはじめた。

 飯場ではほとんど眠れなかったのに、留置場では眠れるようになっていた。

 覚醒剤が体から抜けたのも大きいと思うけれど、ミツオに暴力を振るわれる心配がなくなったのも、たぶん大きな理由のひとつ。

点滴900-500.jpg

ようやく眠れるようになった


(つづく)


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/