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宮崎学の「本当はおもろい韓国ヤクザ映画」 第3回 『シルミド』前編

在日のヤクザも資金を出した実尾島事件 『シルミド』前編

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第3回 『シルミド』前編 国家の翻弄される男たちの悲劇を描く

『シルミド』後編はこちら

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『シルミド』予告編より

 本作は厳密には「ヤクザ映画」のカテゴリーではないのだが、主人公が「元ヤクザ」であること、また日本のヤクザとも浅からぬ因縁があることなどから取り上げたいと思う。前回で紹介した『チング 友へ』の動員数800万人を大幅に上回る1200万人を動員したことでも話題になった映画である。
 
 ストーリーは、実際にあった「実尾島(シルミド)事件」を基にしている。1968年1月、韓国大統領府である青瓦台が襲撃される事件が起こる。韓国側にも多数の死傷者を出したが、当時の朴正煕大統領の暗殺は未遂に終わった。逮捕者の供述から北朝鮮の特殊部隊の存在が明らかになり、朴政権は事件の報復として、北朝鮮主席宮爆破と金日成の暗殺を目的とする特殊部隊を創設する。

 北朝鮮の襲撃部隊と同じ31人の元ヤクザの死刑囚などの隊員が選ばれて韓国・仁川(インチョン)沖の実美島(シルミド)で過酷な訓練を重ねるが、「南北融和」の気運が高まったことで朴政権は中止命令を出す。

 そして、部隊の存在を隠蔽するために隊員の抹殺が計画されるが、これを知った隊員たちが反乱を起こす

 映画は事実と異なる部分も多いが、大ヒットの背景には韓国政府が特殊部隊の存在を長年にわたって隠蔽してきたこともある。

 韓国国防省は映画公開後に事実関係を調査し、「部隊は朴元大統領の指示によって作られ、当時の軍が『訓練後は将校にひきたてる』など、もともと守るつもりもない条件を提示して民間人から兵士を募っていた」ことや「兵士たちは3年あまりにわたる理不尽な扱いに耐えかね、実情を軍上層部に訴えるため脱走した」ことなどを公表している。「韓国近現代史の汚点」とも言える事件の真相を政府が正式に認めたことは、国内外に大きな波紋を呼んだ。

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『シルミド』予告編より

 1970年代の後半頃までの南北朝鮮の力関係は拮抗しており、当時の韓国政府は北朝鮮を追い抜くために国防と経済政策を最優先していた。

 無人島に部隊を駐留させ、工作員を養成するには多額の経費が必要なのは当然だが、当時の韓国にそれほどの「表に出せないカネ」はなかった。

 そこで協力したのが在日のヤクザである。

 ある在日のヤクザは、私に「(シルミドのために)今のカネに換算すると十数億円は出した」と明かしてくれたことがある。

 差別と貧困の中で育った彼らはほとんど読み書きができない。小難しいイデオロギーなどではなく、皮膚感覚で「北はダメだ」とわかっているから、「南に吸収させて統一しよう」と考える。そのために最高指導者である金日成の暗殺が必要なのであれば金銭的援助も惜しまなかったのだ。在日は、本国では「僑胞」と呼ばれ、差別される存在である。しかし、彼らは彼らなりに本国を想っている。朝鮮戦争に義勇兵として志願したのに刺青を理由に断られたヤクザもいるほどだ。

 こうした経緯もあって作られた部隊であったが、歴史に翻弄されて悲劇となったのである。

(後編はこちら


   


【映画の概要】1960年代後半から韓国政府が極秘に進めていた朝鮮民主主義人民共和国・金日成首相(当時)暗殺計画とそのために養成された特殊工作部隊(684部隊)の実話を基に康祐碩(カン・ウソク)監督が映画化。2003年に韓国で上映され、「社会から封印されてきた負の歴史の事実が明かされた」と反響を呼んで大ヒット、韓国内の映画賞も多数受賞した。日本公開は2004年。


   




宮崎学 1945年、京都・伏見のヤクザ、寺村組組長の父と博徒の娘である母の間に生まれる。早稲田大学在学中は学生運動に没頭し、共産党系ゲバルト部隊隊長として名を馳せる。
『週刊現代』(講談社)記者を経て、家業の解体業を兄とともに継ぐが倒産。その後、 グリコ・森永事件では「キツネ目の男」に擬され、重要参考人Mとして警察にマークされるが、事件は2000年2月13日に時効を迎え真相は闇に消えた。1996年10月、自身の半生を綴った『突破者』で作家デビュー。近年は、警察の腐敗追及やアウトローの世界を主なテーマにした執筆活動を続けている。