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俺の、最後の獄中絵日記 第91回

売り言葉に

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前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は、北海道の月形刑務所で服役中。関東で生まれ育った武二郎にとって、真冬の北海道は目新しいものばかりだった!


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2013年(平成25年)4月2日


朝の出役の時、行進の号令係がどうも昨日から元気が無かったらしい。

だから工場に着くなりオヤジから「元気出せ!」って怒られてたのか。

作業が始まると彼はすぐオヤジに呼ばれて担当台の前で何やら話をしてたけど、そのうちオヤジが大声出し始めたんだ。

後で聞いたら「声が小さい! やる気無いなら工場出てけ!」くらい言われて、うるさく突っ込まれたらしく、「じゃあ上げてくれ※1」ってんで連行されたらしい。

まあ、号令かけてる人の声が小さいと皆の声も小さくなりがちになるので、行進の際に元気の無い工場に見えるかもしれない。

舎房から工場まで500メートル歩いていく。

途中には角角に偉いのが立っていて行進を見てるから、声が小さいとオヤジの顔も無いのかもしれない。

かと言って人間だし、気の乗らない日や気分の悪い時だってあらあな。

まして、その人は先日舎房でもめてた2人のうちの1人だ。

あの日は2人とも渋々同じ舎房に戻ったが、人間そんなにすぐに仲直りができるはずも無い。

多分、肚にイチモツあったんでしょう。

そんな気分で毎日を送るくらいなら、上がっちゃおうって思ったんでしょうネ。

とはいえ、これで立て続けに同じ房から3人目の懲罰房行き。

そろそろ、あの部屋には何かあるって思われても仕方ないよ。

   


※1 上げる......懲罰や釈放前教育などで工場に出なくなること