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俺の、最後の獄中絵日記 第63回

一触即発

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〈前回までのあらすじ〉
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は、北海道の月形刑務所で服役中。関東で生まれ育った武二郎にとって、真冬の北海道は目新しいものばかりだった!


一触即発


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2013年(平成25年)2月28日

手にマメを作りながら、千葉の先輩とコンビを組んで、今日もバリ取り作業だ。

すると奥から溶接班の若いのがやってきて、仕上がりについて俺達に「ああしてくれ、こうしてくれ」と上からの感じ。

先輩は面白くない様子だ。

オヤジの目を盗んで俺にそっと耳打ち「何だアイツは偉そうに。技官にでもなったつもりか」と怒り丸出しだ。

ちょっと待ってくれ、俺に言われても困るぜ。

しばらくすると、またその若いのがやってきてひと言ふた言。

すると先輩、手を止めずに目だけでギロリとさせて、どこから出すのかやけに低い声で「......やってるよ!」

若いのが引き上げると先輩はすかさず手を挙げ、オヤジに許可を取る。

「お願いします!」

しかも、オヤジが「用件!」と言うのも待たず、「ゴトーサンと交談お願いします」と来た。

そして先輩は俺を見てひと言「イラッと来るねェ」

そう言うだろうと思ったよ。

「先輩、まあ、そこんとこは軽く流しましょう」と俺は大人の意見だ。立派だろ?

するとそこへ、さっき先輩にすごまれた若いのがヅケ取り※1にやってきた。

今度はうってかわって大変親切そうに「残り30本ですから、急ぎませんので、ゆっくりお願いします!」だってサ。

俺はシカトしている先輩の分までスマイルで「OK!」と答えたよ。

若いのが戻っていくと先輩は、「100本でも200本でもやってやるけど、その前にあの小僧何とかしてやるか! なあゴトーサン」と来る。

全然、怒りがおさまっていない。

この険悪なムード、平和なこの工場も、どうやらやっと懲役らしくなって来たぞ。

これがなァ、先輩じゃなきゃ、俺も空気入れちゃうんだけどね。※2

そのほうがおもしろいし。


※1 ヅケ取り......ごきげんとりのおべっかを言うこと
※2 空気を入れる......あることないこと吹き込んで、焚きつけること