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覚せい剤に命を助けられた男!?

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拉致の原因は借金だった

 白昼の路上でいきなり男たちに取り押さえられ、車に押し込まれて拉致された経験を持つAさん。拉致された理由は、金銭トラブル。借りた金を返さないから拉致されたのだという。Aさんは縛られて、倉庫の片隅に放置された。食事も水分補給もなく、ビックリだらけの拉致初日が過ぎた。

 2日目。Aさんに金を貸した人物が現れ「いつ返すんだ?」と聞いてきた。返す金がないから返せないAさんは「わかりません」とだけ答えた。金の貸主はその場から去り、Aさんは2日目もこの倉庫の片隅に放置された。

 その晩、気がつけば、もう2日間も何も食べてないし飲んでもいない。

 通常の人間の体調は、48時間以上睡眠がないと不調となり、72時間以上絶食状態が続くとこれまた不調となる。Aさんは幸い睡眠はとれていたが、極度の緊張も重なって、48時間の絶食状態で既に体調に異変が出てもおかしくない状況に追い込まれていた。

 このままだと死ぬ──Aさんは強くそう感じた。

脱出のチャンスがやってきた

 縛られているので動けず逃げる事も出来ず、倉庫の冷たい床の上で転がっているしかないAさん。

 そして3日目。

 誰も来る気配がないので、Aさんは、腕のロープを外すべく手を出来る限り上下左右に動かし始める。3日目という事もあって、はじめは固く結ばれていたロープもやや緩んでおり、数時間、手を上下左右に動かしていたらロープがほどけた。

 起き上がったAさんは、倉庫から脱出して、歩いて自宅に戻った。

 先記した通り、3日間も絶食状態で放置されたAさんは、本来ならたとえロープがほどけたからといっても、歩いて帰る体力はまったくないはずだ。そもそもロープをほどくために何時間も手を上下左右に動かし続ける体力も気力もないはずだ。

 それが彼には出来た。
 
 それは、人間、追い詰められれば凄いパワーが出るというミラクル現象ではなく、彼もまた裏社会の住人である事が大きなカギだった。

なぜ彼は脱出できたのか

 Aさんは、拉致される直線に覚醒剤を使用していた。当時、自他共に認める覚醒剤使用者だったAさん。覚醒剤が効いている間は、覚醒している為、空腹感はない。別に水を飲みたいとも思わない。

 覚醒剤中毒者がガリガリに痩せこけてしまうのは、薬物そのものが原因というよりも、覚醒剤の薬理作用が続いている間、空腹感がないので何も食べない、何も飲まない、というのを続けてしまうというのがその主たる原因と言われている。逆を言えば、覚醒中でも機械的に栄養補給さえしていればガリガリになる事はない。

 そんなわけでAさんは、ほぼ3日間、無食無水でも激しい空腹感や脱水感に陥る事はなく何とかなった。

 むしろ神経が覚醒剤によって覚醒しているために、感覚神経と運動神経のバランスが狂って、元気そのもの。Aさんのそんな姿を見たら、戦後間もない頃、元気薬として肉体労働者の間でヒロポンの使用が常習化していたというのも頷ける話だ。またAさんを縛っていたのがロープだったというのもラッキーだった。これが手錠だったら、Aさんは脱出不可能だっただろう。

 そんなラッキーなのか何なのかよく分からない要素もあって、Aさんは死なずに済んだ。その後、借金の方もなんとか清算できて、とにかくAさんは今日も健在である。

 Aさんは、今ではもう覚醒剤を使用してはいない。覚醒剤によって人生を狂わす若者も多い中、覚醒剤によって命拾いが出来たAさんは「あれは大事な薬だから、遊びやセックス程度の為に使うべきじゃない」と微妙な言葉を本気で言う。もちろんAさんの様な体験をした人にしか分からない言葉なのかも知れないが、今、自分が生きていられるのは覚醒剤のおかげであるという妙な立場にいるAさんにとっては、近頃の若者の覚醒剤乱用が許せないらしい。

 町で偶然知人に出くわすと思わず「世間は狭い」なんて気持ちにもかられるがAさんのような人と話すと、世間はまだまだとてつもなく広いぞと感じてならない。


(取材/文=藤原良)

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覚せい剤で命拾い?(写真はイメージです)